筑波研究学園都市は、1980 年にはすでに多くの研究機関が時代の先端を行く研究活動を始めていました。先端の研究がなされる特別な町であるというのが、つくば市の強みです。しかしそれだけではありません。多種多様な研究機関が、この街に共存しているということがそれ以上に大切なことです。それによって他の研究分野との意見交換や共同研究が容易に開始できます。これこそがつくば市の持つ最強の武器です。先端分野の研究というものは、日々新しい発見を生み出し、そのこと自体が縦割りの壁を突き破って、新たな分野に発展していきます。その新し い芽が陽の光を受けて育つ環境を準備することが、つくば市の次世代への発展を保証する大切な条件です。
研究分野は日々変化しながら発展を続けています。今後つくば市が、研究機関の集積した都市としての地位を維持してゆくには、新たな研究分野の発展に応じた成長余地があることが必要です。しかし、つくば研究学園都市には、新たな研究分野の発展のための予備地は用意されておらず、TXの沿線開発によってつくば市の地価は上昇したため、新たにまとまった土地を買うことは容易ではありません。このため、つくば市にはもう新しい研究施設をつくる余 地は無いと言われています。この様な状況のもとで、研究施設用地を売却(転売)してしまうことは、研究学園都市の新しい芽を摘んでしまうことになります。
この観点からは、高エネルギー研究所の研究計画の変更によって生じた46 ヘクタールの未利用地は、余った未利用地ではなく、将来必要とされる新たな研究分野のための施設用地として貴重な存在と言えます。そもそも筑波研究学園都市の研究施設用地は、URの前身の住宅都市整備公団が、半ば強制的に 1 億4千万円(坪千円!)で買収した土地です。当時、土地を提供した地権者と地元の町村は、国の 研究機関が利用する目的と信じて、強制買収に応じたのです。
ところが、筑波研究学園都市の建設と経営を担ってきたUR都市再生機構は、平成 25 年頃、用途についての方針も無く、誰彼かまわずに急いで民間企業に売ってしまおうとしたのです。住宅都市整備公団の後身であるUR都市再生機構が、一団地の官公庁用地として強制買収した土地を、当時の取得価格の 4 5 倍も高い市場価格で民間事業者に転売するのは妥当ではありません。日本の都市造りのリーダーとしてのUR都市再生機構の企業理念からしても理解に苦しむところです。
この用地は紆余曲 折の末、平成 26 年につくば市が総合運動公園用地として66 億円の市場価格で買い入れ、その後総合運動公園の計画は住民投票で否決されたため、買い入れた用地の用途と購入代金の財政負担がつくば市の大きな問題となっています。現在、つくば市はUR都市再生機構と同様に、民間事業者に転売することで解決しようとしていますが、研究学園都市の将来を考えた場合、これには大きな問題があります。
英国のオクスフォード市の近くのハーウェル(Harwell )村に、研究機関が集積した地区があります(航空写真)。当初は原子核物理の研究所が建設 されましたが、現在は医療関係の研究所や先端技術の研究機関(総数 11 )が立地し、英国を代表する研究機関の集積地として成長を続けています。周辺は田園地帯ですから、このハーウェル研究団地( Harwell Campus )は将来にわたりいくらでも拡張してゆくことが可能です。この様に、研究機関の集まる街は、新しい分野の研究を取り入れて絶えず成長をすることによって、その存在価値が保たれてゆくのです。つくば研究学園都市の場合も、研究施設が集積した都市としての地位と機能を保つには、新しい研究分野を取り込みながら成長を続けてゆ く必要があります。
46ヘクタールという東京ドーム 10 個分の高エネ研南側用地は、つくば市に残された最後のフロンティアです。将来の新たな研究分野のための予備地として活用することが強く望まれます。これを転売してしまうと、つくば研究学園都市は将来の成長余地を失い、遠からず衰退に向かいます。
国、県、UR、つくば市は、早急にこの問題について話し合い、日本を代表する研究機関が集積するつくば研究学園都市の未来について、悔いのない判断をすることが望まれます。